● 井上靖「後白河院」

最近また井上靖の「後白河院」を再読しました。このサイトにはちょっと変わった文章ですが、ブログではどんどん奥に行ってしまうので、こちらに書きました。

後白河院を取り巻く4人の人物のそれぞれの視点から物語は展開されます。この時代の歴史的な知識がある程度ないとわかりにくい部分もあるので、 4人の語り部がどのような人物であったかは先に調べておいたほうが良いでしょう。一部は平信範、第2部が建春門院中納言、第3部が吉田経房、第4部が九条兼実、ということになっています。皆それぞれ当時後白河院の側近にいた人物で この手法はなかなか斬新な小説作法と言えると思います。

最近のエンターテイメント性が優先した小説を読みなれた方には、 難解で面白くないと思われるかもしれませんが、改めて読んでみるとこの小説の素晴らしさを再認識しました。注解が114項目もあるという小説も異色です。この注解が無いとかなりの部分わからない用語や項目、事件などがあって、 自分で調べなくてはならなくなると思うので、この注解は助かります。この注解なしですべてが理解できて読み進められる人は、相当な歴史的知識のある人だと思います。

井上靖氏のような大作家と言われる人の作品は、さすがに格調高く味わい深いものがあります。 氏の文体というのはいつもそうですが、淡々と語られて、純文学でも私小説系の人によくある安っぽい装飾的な表現などはありません。しかし、それゆえ味わい深いのです。 読み進むほどに源頼朝をして「日本一の大天狗」と言わしめた後白河院の人物像が鮮明に浮かび上がってきます。

そのモンスター的傑物であった後白河院をして、院の命を受けて鎌倉にいる頼朝に会いに行った中原康定という人物が頼朝を評して「人品骨柄卑しからぬ偉丈夫」と院に伝えると、院は「狐にしても大狐」だなと言わしめた「源頼朝」という人物も やはり傑物であったのだなぁ・・・と、改めて感心してしまいます。 事実この時院は、頼朝という人物が木曾義仲や源行家などと違い簡単には籠絡できない人物ということを見抜いていたようです。このように後白河院は人を見抜く力も抜きん出ていたような気がします。京都の神護寺にある頼朝の肖像画を見ると、確かに意志が強く、頭脳明晰、それでいて気品のある頼朝の顔が見事に表現されていると思います。 最近、この肖像画は足利直義像との説もありますが、頼朝ファンの筆者としては頼朝像と思いたいです。(^-^;)

源頼朝

さすがに立派な顔をされてますね。


 
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